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特集SPECIAL FEATURE

ジブリのサウンドトラックCD
~縁の下の力もち 岡田知子さんに聞く~

2026.06.05

スタジオジブリ作品の数々の名シーンを支え、映画の情景を思い起こさせる音楽。
今回、オンラインショップではスタジオジブリ長編作品のサウンドトラックCDを取り揃えました。
長年ジブリ作品の音楽制作に携わってきた徳間ジャパンコミュニケーションズの岡田知子さんをお招きし、全作品のサウンドトラックCDが揃う今だからこそ伝えたい音楽の魅力や、当時の制作の様子についてお話を伺いました。

岡田知子さん

株式会社 徳間ジャパンコミュニケーションズ ストラテジック制作部 チーフディレクター 兼 第1制作部 ディレクター。
スタジオジブリ作品のサウンドトラック盤の制作を担当。映画『紅の豚』(1992年)以降すべての作品に携わっている。

レコード会社のスタジオジブリ作品担当に。その意外な経緯 

スタジオジブリ作品の音楽制作において、レコード会社の立場から長きにわたり重要な役割を果たしてきた、徳間ジャパンコミュニケーションズの岡田さん。そのキャリアの出発点である、映画『紅の豚』から現在に至るまで、現場における岡田さんの基本的な役割はずっと変わっていません。しかし、その大役を担うことになったきっかけは、意外なものでした。 

岡田さん―実は、私が徳間ジャパン(現・徳間ジャパンコミュニケーションズ)に入社した当時、アニメーション音楽の担当は今ほどの花形部署ではありませんでした。前作までの担当者がジブリ作品にあまり深く入り込んでいなかったこともあり、鈴木敏夫プロデューサー(以下鈴木さん)は物足りなさを感じていたようです。
当時、デスクワークだった私は、鈴木さんのもとへ資料を届けるお使い役をしていました。すると鈴木さんが「いつも来る岡田くんにしようよ。」と言ってくださいました。それがきっかけで『紅の豚』から私が正式な窓口となり、ジブリの音楽担当を務めることになりました。

ジブリ作品の音楽制作のプロセスと、音響現場

スタジオジブリ作品の映画音楽は、宮﨑駿監督と久石譲さんのタッグをはじめ、多くの監督や作曲家が彩ってきました。制作プロセスの中で印象に残っているエピソードをお聞きしました。 

岡田さんー特に印象深いのは宮﨑駿監督、久石さんの現場です。長年築かれた独自のスタイルがあり、まず、宮﨑監督が映画の構想や想いを綴った「手紙」を久石さんに送ります。それを受け取った久石さんがイメージを膨らませ、デモテープ(イメージアルバムの基になります)を制作するのです。久石さんが「ここのテーマに。」と意図した曲が、実際の映画では全く別のシーンに使われるなど、試行錯誤を経て、映画のための音楽が完成します。 

実際の音楽レコーディング現場の様子は、生の音を聴く感動というよりは、とにかく緊張ですね。現場では、じっくり音楽を鑑賞する余裕なんてないんです。
昔は大きなオーケストラで丸ごと録れる広いスタジオが国内にいくつかありました。それが時代の需要とともに閉鎖されていったためと、『天空の城ラピュタ』のUSA版をシアトルでフルオーケストラ レコーディングしたことなどで、『千と千尋の神隠し』の頃からは大規模な音楽ホールで録音するスタイルに変わりました。ステージの奥に大スクリーンを設置して映画の映像を流し、久石さんがそれを見ながら「ここで音を始めて、ここで終わらせる。」と指揮をするのです。 
私たちは客席の後ろから、ものすごい緊張感の中で「うまく録れますように……。」と祈りながら見守っていました。静まり返ったホールだから咳ひとつできず、椅子のきしみ音などの雑音が入ったら一発でアウト。咳が出そうな時はロビーへ退避するなど、本当に大変な現場でした。 

岡田さん 今でこそ、こうして映像に完璧に合わせた音楽録音が比較的普通に行われるようになりましたが、昔は事前に録音した曲を、後から映像に合わせるのが主流でした。
当時、完成した映像を見ながら全編を録音する「フィルムスコアリング」の環境は日本のアニメーション作品ではほとんどなく、それをちゃんとやったのはジブリが最初だったのではないでしょうか。
音のバランス調整も手探りでした。音楽を盛り上げるとセリフが聞き取れなくなるせめぎ合いが常にあり、絵も完成していない「線画」の状態で音を付けるなど、本当に苦労の多い現場でした。

48トラックの格闘とスタジオ合宿――テープレコーディングの舞台裏

かつてのテープレコーディング時代、映画音楽はどのように録音・ミキシングされていたのでしょうか。

岡田さん―すべてテープの時代で、オーケストラ録音ではトラック数が48本もありました。エンジニアが巨大なコンソールのフェーダーを毎日手作業で動かす、気が遠くなるような作業です。
今のデジタル環境とは違い、「もう1度ここから聴きたい。」と思っても、すぐに再生はできません。テープの巻き戻しを待つ時間が必要でした。『ハウルの動く城』の頃からテープとデジタルのハイブリッドになり、そして今はPC1台で事足りることもあります。
アナログは膨大な時間がかかるため、『もののけ姫』の頃まではスタジオに3日間ほどまるで合宿のように籠もり、夜中まで全員で作業をするということもありました。

サウンドトラックCDの作り方とタイトル秘話

映画で流れる音楽と、CDに収録されている音楽には、何か違いがあるのでしょうか。

岡田さん―映画本編と、みなさんが普段聴くサウンドトラックCDとでは、音の作り方が大きく異なります。
映画本編では、映像に合わせてセリフや効果音、音楽を1つの空間にミックスしていきます。それに対してCDは、音楽単体として「2チャンネル(ステレオ)」で心地よく聴けるように、改めてミックスし直す必要があるのです。

楽曲のタイトルは、映画制作の段階では、まだ私たちが知る「曲名」はついておらず、制作中の楽曲には「M1」「M2」といったMナンバー(記号)しかついていません。久石さんも特定の曲名を決めて作るのではなく、「このシーンに合わせた曲」として作られているから…、とお聞きしました。

岡田さん― 実は私、タイトルをつけるのが大の苦手で。でも誰も代わりにつけてくれないので、一応私が「たたき台」を作るんです。でもそれがすごく下手くそで、それを見た宮﨑監督や鈴木さんから、最初は「なんだこれ!」と、けちょんけちょんに言われるのがお決まりでした。
鈴木さんは徳間書店の編集者出身なので、目を引く「本の見出し」のような案、一方で久石さんの案には、独特の雰囲気がありました。最終的に決めるのは宮﨑監督で、やはり監督のセンスで決まるんです。『紅の豚』などもすべて宮﨑監督がつけていました。
「タイトルは作曲家が決めている。」と思われているかもしれませんが、実は違うんです。こちらとしては最初から監督につけてもらえたら楽なのですが、いつも誰も動かないままスケジュールが迫ってくる。見かねた私たちが「そろそろ決めないとマズいです!」とアラート代わりに「たたき台」を差し出すのが、お決まりのパターンでした。

変わらないこだわり「映画は監督のもの」

長年ジブリ作品に携わる中で、時代が変わっても一貫している「こだわり」は何でしょうか。

岡田さん―『紅の豚』から『君たちはどう生きるか』まで技術的な変化は多かったのですが、「最終的な主権は映画そのもの(監督)にある」という共通認識は全く変わりません。
それは久石さんのスタンスにも表れています。ご自身のアルバムでは最終ミックスまで徹底的にチェックされますが、映画の劇伴では音量バランスや配置の最終判断をジブリ側にすべて委ねるのです。もちろん必要な修正依頼は出されますが、後から意見を言うことはほとんどありません。この信頼関係こそが、時代を超えて変わらないものづくりの根底にあります。

アーティストの味方であることと、プロの距離感

長年、第一線の監督や作曲家たちと仕事をする上で、どのようなスタンスを大切にされてきたのでしょうか。

岡田さん―ジブリの音楽制作に携わる際、鈴木さんから「君は常に作曲家の側に立て。レコード会社の人間だからこそ意識してアーティストの立場に立たないと。」と言われました。誰もが会社や制作側の都合に流されてしまいそうになる中で、その言葉は大きな指針となりました。
一方で、宮﨑駿監督や鈴木さん、久石さんとは、仕事の現場以外では必要以上に距離を縮めないように徹してきました。仲間に入れてもらえる立場にあっても、必要以上に寄らないようにして、適正な距離感を大切にして来ました。


おすすめのCDとジャケット制作

今回一緒にお話しを伺った、古城環さん(スタジオジブリ ポストプロダクション部部長。『平成狸合戦ぽんぽこ』以降のジブリ作品の撮影や音響制作に長年携わっている。『千と千尋の神隠し』以降は音響・音楽を担当。) と岡田さんに、それぞれ思い入れのあるおすすめのサウンドトラックCDを挙げていただきました。
長年ジブリの作品づくりに深く携わってきたお二人だからこそ知る、ジャケット制作秘話や、改めてCD盤の魅力をご紹介します。

岡田さん―ジブリのサウンドトラックCDの中から「おすすめの1枚」を選ぶのは難しいです。枠組みにとらわれず、ジャケットのデザインで選ぶ、いわゆる「ジャケ買い」のファンも多いですよね。
CDのジャケットデザインは、「イメージアルバム」の制作時期は映画の完成よりずっと前のため、第1弾ポスターしか素材がありません。サントラ制作時には多少絵柄が増えますが、基本はポスターの絵を使用します。
そのため、縦長のポスターを正方形のCDサイズに落とし込む作業が発生します。しかし、ただトリミングするだけでは綺麗に収まりません。デザイナーが画像を少しずつ動かしたり、配置を工夫したりして1枚のジャケットに仕上げています。
また、『天空の城ラピュタ』のCDジャケットには、かつて背景と透明なシートを重ねた「セル画調」の仕様を仕込んでいました。現在はCDではやめてしまいましたが、LPレコード版にはまだこの仕様が入っています。ぜひお気に入りのデザインを見つけてみてください。

岡田さん―CDのブックレットにも、さまざまな趣向が凝らされています。例えば、米林宏昌監督の『借りぐらしのアリエッティ』では、当時、初回限定でミニ本が封入されました。また、宮﨑監督の『崖の上のポニョ』では、監督本人の意向から「エンディングの絵をすべて載せたい。」というこだわりで、長い紙を使用した仕様が実現しています。こうした枠にとらわれないアイデアを次々と生み出したのが、鈴木さんです。編集者としてのキャリアを持つ鈴木さんならではの視点と、形にとらわれない自由な提案には、いつも驚かされていました。

岡田さん―ブックレットの構成は基本的に私が担当しましたが、掲載する解説文の執筆者については、いつも鈴木さんがその広い人脈を活かして錚々たる方々を提案してくださいました。
マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督の『レッドタートル ある島の物語』の時には、高畑勲監督にも貴重な文章を寄稿していただくことができました。また、『紅の豚』のブックレットには、当時の宮﨑監督と久石さんがともに写っている印象的な写真も掲載されています。
このように、スタジオジブリのCDブックレットには、単なる楽曲解説にとどまらない、制作当時のこだわりと数々の逸話が深く詰まっています。音楽を聴くだけでなく、ぜひ実際に冊子を手にとって、その細部まで見ていただきたいです。

古城さんはいかがでしょうか。

古城さん―『風の谷のナウシカ』と『君たちはどう生きるか』を聴き比べると面白いですよ。どちらも久石さんの原点である「ミニマル・ミュージック」の構成になっていて、フレーズの繰り返しが独特のうねりや情感を生み出しています。
岡田さん―久石さんはもともと現代音楽の作曲家ですからね。
古城さん―まさに『君たちはどう生きるか』で、原点回帰。コンサートなどでじっくり聴くと、その響きに深く引き込まれてしまいます。


「観て、読んで、聴く」ジブリ作品の深い楽しみ方 

今回は、音楽制作の現場を一番近くで見守ってきた岡田さんだからこそ語ることの出来る、大変貴重な舞台裏を伺うことができました。皆さまの記憶に残っているメロディはどの作品でしょうか。
映像作品を観て、書籍を読み、そして音楽をじっくりと聴き込む。ぜひこの機会に、全作品が揃ったサウンドトラックCDを手に取って、じっくりと聴いてみていただければと思います。

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